その出逢いは運命と言えるのか

 ◇1

  「……テッ…」
 ズクリ、と痛んだ腹に手をやろうとした彼は、自分の両腕が後ろ手に縛られているという事に気付いた。どうしたんだ、何があったんだ…思い返しても記憶が曖昧だ。はっきりと思い出せずに、彼は軽く動揺した。ただ、ロープに縛られた手首の痛みに、これが現実の出来事であるのだと思い知らされた。
 薄暗い室内…建物の中であることはわかった…は、他に人の気配が無いようだ。自分は後ろ手に縛られ、部屋の片隅に放置されている。目の前にはベッドと、その奥にカーテンの掛かった窓。横には鏡のついたテーブル、テレビ、冷蔵庫…順に目をやると、そこはどうやらホテルの一室であることが推測できた。そんなに広くは無いから、恐らくはビジネスホテル…か何かだろう。
 そこにきて彼――堂島大吾は、自分が殴られ昏倒させられた挙句、囚われてしまったのだと知った。
 (……そうだ……)
 徐々に冷静さを取り戻した彼は、記憶の糸を手繰り寄せる。
 ミレニアムタワーの近くのバーで飲んでいて、突然乱入してきたやつらに不意打ちを喰らったのだ。そうだ、思い出した。そして相手は恐らく関西の人間だ…会話が関西弁だったからだ。
 いつもは舎弟だなんだと引き連れているのだが、今日に限って独りでブラブラしていたのだ。運の悪いことに…。なんてドジを踏んだんだと、彼は軽く舌打ちをする。縛られた両腕を力任せに揺すってみたが、ロープの結び目はびくともしなかった。
 「くそっ!」
 力任せに、あらゆる方向へと腕を振った。けれど、そんな努力をあざ笑うかのようにそれは緩まることはなく、逆に痛みが増していくばかりで…。さらに思い出したかのように、身体中が痛みに悲鳴をあげ始め大吾に追い討ちをかけた。
 適温に保たれた室内でロープと格闘していた彼の額には、うっすらと汗がにじむ。それを不快に思う余裕なんてなく、大吾はまだ見ぬ拉致犯がいつ戻ってくるのか、それに思考の半分は持って行かれていた。
 そうやって、独り奮闘してどれほどの時間が経っただろう…。
 不意にドアの外が騒がしくなった。
 ドスドスと廊下を踏み鳴らす足音。誰かに喚き立てる野太い声。それに謝る声。外には数人の人数がいるようだ。そしてまた野太い声……ドアを挟んでいても、その声には一種の威圧感があって、大吾に何ともいえない緊張感を与えた。脇腹あたりがシクリと痛むような…決して心地よいとは言い難いような…。
 ドアの施錠が解かれ、ドアがゆっくりと開く。
 「おう、起きとったか。ぎょーさん寝とったのぅ。こんまま起きんかったら、水でもぶっ掛けようかと思うたわ」
 ドカドカと室内に入ってきた男は、大吾を見下ろしながらベッドの端に座った。彼の後には誰も入って来ない。開けられたドアが静かに戻り、カチャリと閉じた。室内には二人だけとなった。
 「何や、呆けてんのか?おい、こら」
 馬鹿にしたように口許に笑みを浮かべ、床に座らされた大吾を見下ろす。投げ出された大吾のつま先を、男のつま先が容赦なく蹴った。
 「……………」
 痛かったが、辛うじて声は上げなかった。代わりに相手の顔をジロリと睨みつける。その瞳は、まだ全てを投げ出してはいなかった。
 そんな大吾の態度に、男は面白そうに笑みを浮かべる。そして今度は力任せに彼のつま先を踏みつけた。明らかに、大吾に声を上げさせる目的でだ。
 「…………っ」
 「おぉ、根性あんのぅ」
 横柄な態度。言い知れぬ威圧感。相手を射竦めるような目。綺麗に染まった金髪、浅黒い肌。それにこの喋りとくれば、この男が誰なのか…大吾はなんとなくわかり始めていた。
 コイツは、関西の龍だ。
 そう思った瞬間、背筋にゾクリと走るものがあった。


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