その出逢いは運命と言えるのか

 ◇4

 「ぐぁっっ…フゥ…ぅあ……」
 ガクガクと揺さぶられる力が増してくる。相手の限界が近いのだろうが、今の大吾にはそんなことに気付く余裕さえない。ただ、いつになったらこの責め苦から解放されるのか、そればかりが頭の中を駆け巡る。早く、とにかく早く…終わってくれと。
 やがてそんな大吾の願いが通じたのか、獣の咆哮のような呻き声が聞こえ男の動きが止まった。
 終わった…やっと終わった…大吾の身体から力が抜ける。脱力してベッドに突っ伏すと、後ろに挟まっていた男の肉が、ずるりと抜け出た。一瞬痛みに顔を顰めたが、でもそれ以上に安堵の気持ちの方が強かった。
 「くっ……」  が、それと同時に襲ってきたのは、えも言われぬ不快感だった。腿の間に伝い流れる体液の感触。自分の体内に吐き出された欲望の証をまざまざと感じ、屈辱的な気持ちに打ちのめされる。この自分が、女みたいな扱いを受けた。暴力で身体を弄ばれ辱められた。怒りで声も出ない。震える肩を、腕を、何とか突き立て、彼は背後の男をゆるりと振り返った。
 「…おお、まだそんな顔が出来るんや。なら大丈夫やな」
 何が大丈夫なものか。大吾は怒りで目の前が真っ赤に染まった。だが、与えられたダメージは相当に大きく、そうやって睨み返すだけで精一杯だった。
 全裸の大吾と違って、男はズボンの前立てを僅かに寛げただけだった。それをゆっくりと直した男は、来た時と同様の姿へと戻る。たった今、セックスを終えたという気配を微塵も感じさせず、男は悠然とした態度で大吾に背を向けた。
 「おい、待てっ!」
 「何や、まだ可愛がって欲しいんか?」
 ふふんと、鼻で笑う態度も忌々しい。大吾はキッと相手の背中を睨みつけた。
 「ふざけんなっ!」
 「ふざけてなんかおらんわ。まぁ、時間が空いたら、また可愛がってやってもええで。お前の色っぽい明王さん、また拝ませて欲しいからな」
 そう言って男はスーツの内側から札入れを取り出した。そこから数枚の紙幣と、小さな紙切れを取り出す。ホテル代と、こっちは連絡先やと、男はそれだけを言ってベッドの上に放り投げた。バラバラと舞う紙幣が大吾の上に降り掛かる。大吾は屈辱のままそれを受け止めていた。
 男は振り返ることなく、そのまま部屋を出て行く。シンとした静寂の中、ドアの閉じる音が大きく響き、独り取り残された大吾は、追い掛けることも出来ずにただじっとしているだけであった。
 「クソッ!」
 怒りに震える拳を、そのままシーツの上に叩きつける。手元に落ちた紙幣を握り潰し、何度も何度も拳を打ち付けた。そうやったところで、この怒りは収まる筈も無いのだが、今の彼にはそうするしか怒りを消化する方法が思い浮かばなかった。
 やがて視線の端に、紙幣じゃない何かが止まった。白い小さな紙切れは、男の名前と携帯の番号だけが記されていた。
 「……郷田……龍司…」
 その名を読み上げ、大吾は唇を噛む。番号を記憶すると、その紙片を丸め部屋の片隅へと投げ付けた。
 大吾の中に、男の…郷田龍司の存在が大きく刻まれた。


 それから数週間後――。
 大吾は関西へと出向いていた。
 当然、頭の中には郷田への復讐しかない。その怒りが彼を関西へと駆り立てた。
 空で覚えていた携帯の番号。大吾は躊躇うことなくその番号を押し、相手の所在を確認した。
 『おう、お前か。電話待っとったで?』
 「ふざけんな…今何処だ」
 相変わらずのふてぶてしさ。数週間経っても、その怒りは収まるどころか激しく燃え上がっていた。相手の面白がった様子は、大吾の怒りに更に油を注いだ。
 『何や、会いに来てくれたんか。そら嬉しいねぇ…』
 そう言って笑った郷田は、大阪市内にある某ホテルの名を口にした。その部屋番号まできっちりと告げた男は、待ってるでとその胸の内を読み取らせないような低い声で電話を切った。
 大吾は悔しさに唇を歪める。そんな余裕ぶった態度もあと少しだと、腰に挟んだ黒くて硬い物体に手を這わせた。その冷たい感触に、武者震いとも取れる震えを一つすると、彼は言われた場所へと歩き始めた。

   だが、大吾の怒りは昇華することはなく――。
 確認した部屋番号。
 その扉を開けた大吾の眼に飛び込んで来たのは、見覚えの無い男の死体と、床に転がった拳銃――あの時、郷田に奪われたままになっていたそれだった。
 それらを見て、大吾は息を呑み、ああと天を仰ぐ。一瞬で飲み込めた。
 ハメられた…。
 そう思うと間もなく、彼は廊下を駆けて来る複数人の足音を聞いた。


 おわり  


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