その出逢いは運命と言えるのか
◇3
訳がわからない。
今、自分に何が起こっているのか、俄かに信じ難くて。落ち着け、しっかりしろと自分を叱咤する声が頭の中を駆け巡るが、そんな言葉は右から左へと一瞬で消え去って行った。後に残ったのは、「どうして自分が女みたいに組み敷かれてるんだ?」「自分もコイツも男なのに…」「まさかコイツはオレを…」「いや、冗談だろう」と、認めたくない現実に対する自問自答の繰り返しだけだった。
自由を奪われた己の身体。肌に触れる布地の硬さ。胸元を這う濡れた感触。自分のものではない熱い吐息。そのどれもが、今自分の身に降り掛かっている現実だ。
「こんな危ない玩具、持ってたらアカンやろ?」
身を守る唯一の道具だった拳銃を腰に挟んでいたのだが、それもあっさりと奪われる。男の手に掛かれば、本当に玩具のピストルのように見えてしまう。男は後ろ手で己の背中にそれを突っ込み、再び大吾の胸へと顔を寄せた。
「テメ…ッ、何……つっ!」
後ろ手に縛られた両腕を懸命に動かしながら、自分の胸に伏せられた金髪の髪を凝視した。
「クククッ……」
その相手はまるで大吾の怒りを煽るかのように、その舌の動きを大胆にした。舐めて吸い付き、時折歯も当てる。皮膚の薄い部位に容赦無く犬歯を突き立て噛み付く。かと思えば、その部位を癒すように舌が優しく撫でて行く…ゆっくりと、丁寧に。
その動きは、混乱する大吾を更に動揺させた。
「ふっ……っ」
空気に触れたその跡がひやりとして、知らず身を震わせる。でもそれは寒さから来るものだけではない。それ以外の何かも、十分に作用していた。
だが、大吾は気付かない。否、気付かないフリを通した。そうしなければ、自分の男としての矜持までもが、惨めにも踏み躙られるような気がしたからだ。身体だけではなく、心までも…この男に。それだけは許されなかった。
「知っとるか?ココは男でも感じる場所なんやで?」
そう言って、キュッとその突起を目一杯抓られる。痛いばかりの筈なのに、何処かむず痒い。でもそれも頭を振って否定する。違う、違うんだと、自分に強く言い聞かせる。自由を奪われた大吾に出来ることは、そんなことしか残されていなかった。心で抵抗するしか…。
「強情やなぁ…まぁ、あとどんだけ我慢できるか、見せてもらうかのぅ」
そんな大吾に、男は何処までも非情だった。
彼は胸への悪戯をさも興味でも無くなったかのようにあっさりとやめた。でも次なる目標は、その視界の中に捕らえていた。
胸から移動した手は、ゆっくりとそこを離れ臍から脇腹へと向かう。まるで大吾の恐怖を煽るように、嘲るように、男の指先は目的の場所に辿り着いた。かと思えば、ガシッと、そのウエストを痣がつくほどの力で掴み己の方へと引き寄せる。これから何が起こるのか、大吾に知らしめるようにその手が股間へと置かれ卑猥に動いた。
「やめっ……ちくしょ…」
バタバタと足を動かして抵抗する。鳩尾に膝をぶち込んでやろうかと振り上げたが、悔しいかな、あっさりとかわされた。
「ククク…そうや、それぐらい抵抗してみせな、おもろないやんか」
男は大吾の足を掴むと、膝に馬乗りになった。ベロリと舌なめずりをして、楽しそうに獲物を見下ろす。さてこれからどうしてやろうかと言わんばかりの顔だった。
大吾の背に、またしても緊張が走る。一瞬、絶望という言葉が頭を過ぎった。
「よせっ!何考えてやがんだっ、テメェ!」
「さて、何やろか?」
乱暴な所作で大吾のジーンズに手が掛けられる。抵抗するように暴れる大吾だったが、でもそれは逆に相手の行動を助長するだけだった。腰が浮いた瞬間を見逃さなかった男は、邪魔なベルトを外し、下着諸共それらを奪い去った。
「ぅっわ……っ……!」
男の熱い掌が、躊躇うことなく大吾の下半身に触れた。欲に兆し始めていたその肉を、握り潰されると思われる程の力で掴み取られる。そこには相手を慮る気持ちなど皆無に等しく、ただ嬲って辱めることしか無かった。
「くぅ……っ、痛…っ」
「当たり前や。優しゅうされるとでも思ったんか?」
快感を引き出すことなど全く考えていない乱暴な手つき。力を緩めるどころか、更にその力を込めていく。握り潰されるという恐怖が頭の中を過ぎり、大吾は苦しそうにその顎を上げた。痛い、苦しいとこぼれそうになる言葉を飲み込み、しかしそれらとは全く正反対の何かも身体の片隅に生まれ始めていることに気付き、彼は懸命に歯を食いしばった。相手に悟られてはならないと…それだけは絶対にと。
だがそんな頑張りもそこまでだった。
「ふっ……ぅあ…」
そこからうめき声とも嬌声とも取れる声が漏れ始めると、男は満足げに唇を綻ばせ、その部位を強弱をつけて擦り出した。今度は明らかに快感を引き出すような手つきだ。ゆっくりと上下するその掌に、大吾は翻弄された。乱暴ながらも着実に快感を煽っていくその手に、敵ながら溺れ始めていた。
「あっ……くっ……ふ…」
「どうや、出したいんやろ?出してもええんやで」
「だっ…誰…がっ…」
女と違い、男の場合だと一発でバレる。感じたのか、感じていないのか、その手に吐き出したものが如実に教えてくれる。大吾は懸命に堪えた。だが、
「あぁ……っ!」
限界を超えると、もうそこに残されたのは敗北感だけだった。敵の手で嬲られあっさりといかされて、大吾のプライドも床に打ち捨てられた衣服同様にズタズタで…。精神も肉体も追い込まれ、彼は疲労困憊という体で寝台にその身を預けた。もうその時点で、相手の隙を付いて返り討ちにし、この場から逃げ出すという考えは、頭の中から殆ど消えかけていた。
「まだ終わりと違うで?」
男は吐精を終えてぐったりとした大吾を休ませることなく、その身体をぐるりと回転させた。その際、邪魔な衣服は全て剥ぎ取られ、大吾の背に彫られた明王の姿をその眼前に曝された。
「やめっ…」
力の入らなくなった身体は成すがままだ。辛うじて声は出せたが、その声も何処か弱々しい。
「やめぇ、やめぇ、それしか言えんのか…ボケが」
ふん、と鼻で笑った男は、全身裸に剥いた獲物の背を満足げに眺める。火炎を背負った神をしげしげと見つめ、その線を指でなぞられ、大吾は小さなうめき声を上げた。何かを確認するかのように、時折その指先に力を込めて辿る。その都度、大吾の身体がビクリと波打った。
「クク…お前の紋々は不動明王かいな。なんや、お前の背中にあると、戦いの神さんも妙に色っぽく見えるなぁ」
「何っ……クッ」
「褒めてんやで?」
男はその背に屈み込んだ。恭しく明王に頭を垂れ、その力強い眼に吸い込まれるかのように唇を寄せる。だが次に男の取った行動は、その神を冒涜する以外の何ものでもなかった。
唇から大きく出した舌でその神を舐め、徐々に歯を食い込ませていく。大吾の身体が痛みに震えたが、そんなことなど気にも留めずに歯を当て続けた。舐めては噛み付き、その繰り返しで大吾の背を貪っていく。
「クゥ……ああぁっ」
最終的にはその肩口に犬歯を突き立てられた。物凄い痛みに、大吾は悲鳴を上げる。だが次の瞬間、それ以上の痛みが彼の下半身を襲った。
「――っ!あぁぁぁぁっ!」
まるで身体を二つに引き裂かれているような痛み。大吾はその背を仰け反らせ、大きく眼を見開いた。自分に何が起こっているのか、振り返らなくてもわかってしまった。信じられない、信じられない…その言葉が呪詛のように彼の頭を支配する。突如襲った激痛に苦悶の表情を浮かべ、彼は必死にその痛みと戦った。
「ふふっ、意外とええで、お前の。初めてやないんと違うか?」
「くっ…な…っ……ハッ、ハ…」
そんなことあるわけが無い。そう言い返そうとしたが、もうその唇から言葉が紡ぎ出されることは無くて。
好き勝手に身体を揺さぶられる。情け容赦ない突き上げは、相手の存在などまるっきり無視だ。自分のことしか頭に無い、自分が満足して射精することのみ、それしか考えていないような行為。
相手を辱め身体的にもダメージを与えられる、最初はそう思って取った行動だったのだろうが、今この男の中にはそんな考えなど微塵も無いように思えた。
ただ、肉欲に溺れる一匹の雄…それだけだった。
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